日本のクラフトウイスキー界で、近年とくに注目を集めているのが北海道・厚岸町にある【厚岸蒸溜所】です。スコットランドの伝統製法に倣い、冷涼湿潤な気候の中でゆっくりと熟成される厚岸ウイスキーは、国際的にも高く評価されています。
本記事では、厚岸蒸留所や厚岸ウイスキーのラインナップなどについて詳しくご紹介します。
■ 厚岸蒸留所とは?
厚岸蒸溜所は、2016年に北海道釧路管内・厚岸町で創業された蒸溜所です。
厚岸蒸溜所の創業者・樋田恵一氏がシングルモルトの世界に魅せられたのは、20年前に飲んだアードベッグ17年がきっかけでした。
「スコッチの聖地・アイラ島のようなウイスキーを日本でも造りたい」――その情熱が、2016年の蒸溜所設立へとつながります。
選ばれた場所、厚岸町の冷涼で湿度の高い気候は、アイラ島に似た環境であり、ウイスキーの熟成に理想的な条件を提供しています。特に、海霧が町を包み込む気候と、町内で採取される泥炭(ピート)は、厚岸ウイスキーに独自のスモーキーな香りをもたらし、深みのある味わいを作り出します。この地域特有の素材と気候が、「テロワール・ウイスキー」としての評価を支え、厚岸ウイスキーの個性を引き立てています。
本格スコッチ製法
設備面にも妥協はありません。蒸溜器はスコットランドの名門フォーサイス社製。伝統的な2基の銅製ポットスチルを使用し、温度や時間管理など細部にわたる工程をデータ化し、安定した品質の原酒を製造しています。
発酵工程では、特に乳酸菌由来の発酵香を大切にし、乳酸発酵の時間を十分に確保。それにより、厚みのある香りと深い余韻を持つウイスキーが生まれます。
また熟成にはバーボン樽、シェリー樽、ミズナラ樽、ワイン樽など、さまざまな樽が使用され、これらの特徴的な樽で育まれたウイスキーは、ピート香と豊かな熟成を持っています。また、日本らしい風味を加えるために「ジャパニーズミズナラ樽」を積極的に使用しており、これがウイスキーに深みと余韻を与えています。
“厚岸オールスター”という理想のウイスキー造り
2023年にはモルト製造棟を新設。これにより、原料の大麦から蒸溜、熟成、瓶詰め、出荷まで、すべてを厚岸の地で完結する真の地ウイスキー造りが実現しました。
厚岸産の大麦を厚岸のピートで燻し、厚岸由来の酵母で発酵させ、厚岸産ミズナラ樽に詰めて、厚岸の丘の熟成庫で育てる。
まさに「厚岸オールスター」。土地の力を最大限に引き出した、地域一体型のウイスキーづくりです。
■ 厚岸ウイスキーのシリーズと種類(限定ボトル含む)
厚岸ウイスキーは現在、大きく3つのシリーズに分けられます。
◆【二十四節気シリーズ】(限定リリース)
厚岸蒸溜所の代表的なシリーズとして、「二十四節気シリーズ」があります。これは、日本の伝統的な暦に基づいて約3か月おき、年に数本リリースされるシリーズ。各ボトルに節気の名前がつけられ、2020年からリリース開始。将来的に全24種類を揃える予定。
それぞれの節気が持つ季節感を反映し、樽やブレンドが変化することで、味わいも一本一本まったく異なります。完成後は全24本が揃う希少なコレクターズシリーズとなる予定です。
現在までにリリースされた銘柄(一部抜粋):
- 寒露(かんろ)
- 雨水(うすい)
- 芒種(ぼうしゅ)
- 処暑(しょしょ)
- 立冬(りっとう)
- 大寒(だいかん)
- 清明(せいめい)
- 大暑(たいしょ)
- 大雪(たいせつ)
- 立春(りっしゅん)
- 冬至(とうじ)
- 穀雨(こくう) など
各ボトルごとに使用する樽や熟成年数が異なり、バリエーション豊かな味わいが楽しめます。
◆【厚岸 シングルモルトシリーズ】
100%厚岸産原酒を使用したシングルモルト。地域のテロワールを体現するシリーズで、スモーキーで力強い味わいが特徴。
- 厚岸 シングルモルト第1弾「サロルンカムイ」
- 厚岸 シングルモルト第2弾「大寒」
- 厚岸 シングルモルト第3弾「芒種」 など
◆【厚岸 ブレンデッドウイスキーシリーズ】
厚岸の原酒に加え、国内外の原酒(例:秩父蒸溜所、スコットランド)をブレンド。厚みと複雑さを兼ね備えた味わいに仕上がっています。
- 厚岸 ブレンデッドウイスキー「処暑」
- 厚岸 ブレンデッドウイスキー「小雪」
- 他、限定リリースあり
■ 味の評価(テイスティングノート)
以下に、個人的に飲んだことがある、二十四節気シリーズの一部ボトルのテイスティングノートをご紹介します。
【立春(りっしゅん)】
- 香り:白桃や花梨、ハチミツのようなやさしい甘さ。かすかにシトラス。
- 味わい:フルーティーで滑らか、春の訪れを感じさせる軽やかさ。
- 余韻:ふんわりと穀物の香りとピートが残り、春の霞のよう。
【大寒(だいかん)】
- 香り:スモーク、黒糖、ウッドスパイス。どっしりとした冬の重み。
- 味わい:重厚でピーティー、スパイスと甘みがバランス良く広がる。
- 余韻:長く続くスモークとビターオーク。冬の夜に寄り添う味わい。
【清明(せいめい)】
- 香り:レモングラスやリンゴ、青竹のような清涼感。
- 味わい:フレッシュな酸味、軽やかなピート、ミントのような後味。
- 余韻:スッキリとした草原のような香りが残る。
【穀雨(こくう)】
- 香り:青草、白桃、バニラ、海辺のような軽い潮の香り。
- 味わい:フルーティーでジューシー。バランスの良い塩味と甘さ。
- 余韻:すっきりとした清涼感と淡いスモークが持続。
【冬至(とうじ)】
- 香り:シナモン、ドライフルーツ、ビターチョコ、優しいピート。
- 味わい:コクのあるモルトと黒糖の甘さ、複雑で奥行きのある味。
- 余韻:深く長いピートスモークと温もりのあるスパイス感。
厚岸蒸溜所は、地元の自然環境や素材を活かしたウイスキー造りを続けており、今後のリリースにも大きな期待が寄せられています。
■ 厚岸ウイスキーの希少性と価値
厚岸ウイスキーは年に数回しか発売されず、1本あたり数千〜1万本程度の限定生産。さらに、国内外のウイスキーアワードで数々の受賞歴があるため、コレクターズアイテムとしての価値も高まっています。
2023年のWWA(ワールド・ウイスキー・アワード)では、「寒露」がジャパニーズブレンデッド部門で金賞を受賞するなど、その実力は折り紙付きです。
■ 蒸溜所見学ツアー情報(※最新情報は公式サイトを参照)
厚岸蒸溜所では、現在、一般向けの蒸留所見学は不可。ただし、道の駅「厚岸味覚ターミナル コンキリエ」主催のツアーで見学が可能。料金は3000円。
内容には下記のようなものが含まれます
- 原材料や製造設備(ポットスチル、発酵槽など)の見学
- 熟成庫内部の案内
- 試飲(ブレンデッドまたはシングルモルト)
- ショップ
▶ 公式サイト:【厚岸蒸溜所】
■ まとめ:今後さらに注目の「厚岸」
厚岸ウイスキーは、世界的にも注目されている次世代のジャパニーズウイスキー。スモーキーさと華やかさのバランス、日本の季節感を反映したボトルデザイン、そしてストーリー性の高さが魅力です。
希少な限定ボトルは即完売になることも多いため、見つけたらぜひ試してみてください。
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