「吉田電材蒸留所」産業技術からウイスキーへ。グレーンウイスキーの新境地を切り拓く

ウイスキー

吉田電材蒸留所」という名に、ウイスキー好きなら思わず首をかしげるかもしれません。「電材?なぜその名前?」——その答えは、この蒸留所の母体が、産業機器や医療機器を製造する“吉田電材工業”であることにあります。

異業種からの挑戦:ものづくり魂が息づく蒸留所

1940年創業の吉田電材工業は、長年にわたって日本の製造業を支えてきた技術集団。その精密加工技術とクラフトマンシップを生かし、2022年に新潟県村上市に設立されたのが、吉田電材蒸留所です。

“スコッチタイプが主流”の日本において、あえて選んだのは、アメリカンスタイル=バーボンタイプのグレーンウイスキー。地名ではなく社名を冠したその姿勢にも、他とは一線を画す覚悟がにじみます。

リーダーはワイン醸造を学んだ3代目社長

蒸留所を率いるのは、吉田電材工業3代目社長であり蒸留所長の松本国史氏。農学部でワイン醸造を学び、大手食品メーカーで工場運営に携わった彼は、ウイスキー好きの枠を超えた“現場感覚のプロフェッショナル”です。

後発だからこそ、他と違うことをやりたかった
——その言葉の通り、彼の挑戦は型にはまらない道を歩み始めています。


日本のウイスキー業界に欠かせない“新たな歯車”

現在の日本では、クラフト蒸留所の多くがモルト原酒の製造に特化しており、純国産のブレンデッドウイスキーを作るには、国産のグレーン原酒が不可欠

吉田電材蒸留所は、“グレーン専業蒸留所”として、自社ブランドの製造だけでなく、他蒸留所向けに原酒を供給。まさに、業界のバランスを支える歯車的存在となっています。


“静かなスピリッツ”から“主張するウイスキー”へ

従来、グレーンウイスキーは「サイレントスピリッツ(静かなスピリッツ)」と呼ばれ、ブレンデッドウイスキーの裏方的存在でした。

しかし吉田電材蒸留所は、この常識を打ち破ろうとしています。北海道産デントコーン、愛媛県産裸麦、米、蕎麦など多様な穀類を巧みに組み合わせ、単体でも“主張する味わい”を持つ原酒を追求。

これは、グレーンウイスキーに新たな個性を与える革新の試みです。


「アメリカンスタイル」グレーンウイスキーの製法

現在の主力製品は、下記のようなアメリカンスタイルの原料構成

  • 北海道産デントコーン:70%
  • ドイツ製ライモルト:15%
  • 大麦麦芽:15%

これらを、段数可変のカラムスチル(連続式蒸留器)で蒸留。蒸留回数を柔軟にコントロールすることで、香味のバリエーションを多彩に演出しています。


すべて国産原料へ:地域と歩む挑戦

今後は原材料をすべて“メイド・イン・ジャパン”に切り替えることを目指しており、新潟県内の農家と連携した穀類栽培プロジェクトも始動。トウモロコシ、大麦、小麦、ライ麦といった原料の地産地消化が進められています。

また、年間180回の仕込み・10万リットル(アルコール度数62%)の生産を目標に、250回以上の体制整備も視野に入れています。


“技術屋”ならではの蒸留設備と思想

設備面では、ドイツKothe社製のハイブリッドスチルを導入。これは、容量5,000Lのヘルメット型ポットスチルと、8段のカラムスチルを併せ持ち、多彩かつ効率的な蒸留を可能にします。

また、穀物ごとに粉砕度を変えられる専用粉砕機や、ろ過を行わず全素材を活かす“オールマッシュ型糖化槽”といった、独自設備を駆使。これにより、裏方だったグレーン原酒に主役級の個性を与えています。

初蒸留(2022年10月)には、シカゴのクラフト蒸留所「KOVAL」創業者ロバート・バーネッカー氏も駆けつけ、注目度の高さがうかがえます。

蒸留に使う水も、“日本一きれいな川”に選ばれた荒川の地下水(軟水)。素材の個性を引き出す環境にも、余念がありません。


自社ボトルと、業界支援の二軸展開

吉田電材蒸留所は、今後、自社ブランドでのボトリングに加え、国内のブレンダー向けに多様なグレーン原酒を供給することも計画中。

この多軸展開は、日本のクラフトウイスキー業界全体にとっても、個性と選択肢を広げる原動力となるはずです。


商品紹介:グレーンウイスキー 1年熟成(55度・250ml)

吉田電材蒸留所が手がける初期リリースのひとつが、「グレーンウイスキー 1年熟成」です。
バーボンタイプのアメリカンスタイルで仕上げられたこの原酒は、北海道産デントコーンを主原料とし、1年間の樽熟成を経たうえで、アルコール度数55度でボトリングされています。

容量は250mlと手頃で、クラフトウイスキーの“今”を味わうには最適な一本。熟成1年という短期ながら、濃厚なコーンの甘みとスパイシーさが共存する、主張のある味わいに仕上がっています。
「サイレントスピリッツ」から「ラウドなウイスキー」へ——吉田電材蒸留所のコンセプトを体現する、意欲的なリリースです。



おわりに:異分野から生まれた必然

一見突飛にも思える、電材企業からのウイスキー事業参入。しかし、それは日本のものづくりの精神がたどり着いた“必然”なのかもしれません。

“静かなスピリッツ”に命を吹き込む吉田電材蒸留所。今後の展開から目が離せません。

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