日本のウイスキー業界に新たな風が吹き込まれています。それが、新潟県新潟市に誕生した「新潟亀田蒸溜所」。異色のバックグラウンドを持つこの蒸溜所は、単なる地方のクラフトディスティラリーにとどまらず、そのユニークな成り立ちと急速に進化する設備、そして次々と挑戦を続ける姿勢がウイスキー愛好家たちの注目を集めています。
印章業界最大手からウイスキー造りへ
新潟亀田蒸溜所の母体となるのは、全国に120店舗以上を展開する印章メーカー大手「はんこの大谷」。取締役であり蒸溜所創業者の堂田浩之氏は、「印章業界は国内市場に限られる。世界市場に挑戦したい」という熱い思いから、ウイスキー造りへの道を決意しました。
2019年に設立された合同会社新潟小規模蒸溜所は、新潟市江南区の「竜田工業団地」に蒸溜所を構え、2021年2月に本格的な蒸留を開始。ウイスキー業界における異業種参入は珍しく、堂田氏の大胆な挑戦は多くの注目を集めています。
素材と設備への徹底したこだわり
仕込み水には新潟県を流れる阿賀野川の水を使用し、麦芽には英国産をはじめ、地元新潟産の「ゆきはな六条」も使用。地元産の素材に力を入れることで、新潟ならではの風味を感じられるウイスキーを目指しています。
2022年には、効率的な自社製麦を作るため、全自動製麦機を導入。これにより、1回の仕込みで1トンの大麦を処理することが可能になり、生産効率が大幅に向上しました。
また、発酵槽には木桶(アカシア材、フレンチオーク)を使用し、酵母はディスティラリー酵母とエール酵母を併用。木桶の乳酸菌が加わり、深みとコクのある味わいを生み出しています。
さらに、スコットランドのフォーサイス社製のポットスチルを導入。サブクーラー(補助冷却器)を追加することで、冷却効率を向上させ、より芳醇で雑味の少ない原酒を抽出しています。初溜はランタン型、再溜はバルジ型を使い分け、精密な蒸留が行われています。
樽と熟成環境の多様性
熟成にはバーボン樽、シェリー樽、ブランデー樽、ワイン樽を使い分け、複雑で深みのあるフレーバーを引き出しています。さらに、温湿度管理を自動化した熟成庫と、伝統的なダンネージ式の熟成庫を併用し、新潟の気候を活かしながら多彩な個性を持ったウイスキーを生み出しています。
新たな挑戦──ライスウイスキーとラム
2022年には、ウイスキーの枠を超えて新たな挑戦が始まりました。第二生産棟では、新潟県産の米を使ったライスウイスキーの製造をスタート。米51%、麦芽49%という割合で製造されるこのグレーンウイスキーは、新潟の特産である米を生かした新しいタイプのウイスキーです。
また、北海道産の甜菜糖を使用したラムの製造も始め、堂田氏の地元愛が感じられるラインナップです。ハイブリッド型スチルや9段コラムスチルを使用し、クラフトスピリッツの新たな地平を切り開いています。
飲める原酒──ニューポット
一般的に、熟成前のウイスキー原酒(ニューポット)は荒々しい味わいが特徴ですが、新潟亀田蒸溜所のニューポットは一味違います。「New Pot Peated」はスモーキーさがありながらも、深みと甘みが調和しており、原酒としても飲みやすい仕上がりです。現在販売中のニューポットは、以下の3種類。
- New Pot Non Peat(ノンピート)
- New Pot Peated(ピーテッド)
- New Pot Niigata Barley(新潟産大麦100%使用)
どれもフレッシュで、原料の個性がしっかりと表れています。これらはウイスキーの未来を感じさせる、魅力的な原酒です。全国のイベントなどでは、限定のニューボーン(熟成途中の原酒)も販売されており、蒸溜所の情熱が伝わってきます。
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世界が認めた味わい──「OHTANI WHISKY Pisces」
2025年、新潟亀田蒸溜所の初となるシングルモルトウイスキー「OHTANI WHISKY Zodiac Sign Series “Pisces”」が発売されました。わずか3年熟成でありながら、100%自社蒸溜のモルト原酒による完成度の高さは、ウイスキー愛好家たちに驚きと興奮をもたらしました。
テイスティングノート
- 香り:最初に広がるバーボン樽由来のバニラとチョコレートの甘い香り。時間が経つにつれて熟した果実の酸味が感じられます。
- 味わい:滑らかな口当たりに甘みが広がり、控えめなスパイス感が奥行きを演出。軽やかでありながらも複雑です。
- 余韻:甘みと酸味が調和し、長く心地よく残ります。熟成の若さを感じさせないバランス感が魅力です。
新潟から世界へ──堂田氏の夢はまだ続く
新潟亀田蒸溜所は、まだ若い蒸溜所でありながら、地元の気候や文化を取り込み、唯一無二のウイスキーを生み出しています。今後は、新潟産の麦芽使用や、県内各地での熟成プロジェクトなど、さらなる進化が期待されています。
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