スコッチウイスキーの魅力のひとつに、独特のスモーキーな風味があります。このスモーキーさを生み出すのが「ピート」と呼ばれる泥炭です。ピートはスコットランドのウイスキー製造において欠かせない要素であり、その風味を生み出すプロセスは長い歴史を誇ります。
今回は、ピートとその魅力的なフレーバーを生み出す「ピーテッドウイスキー」について深掘りしていきます。
ピート(泥炭)とは?
ピートとは、シダやコケ、草などの枯れた植物が何千年もの間、湿地帯に堆積して作られる有機物です。これらの植物は、酸素の少ない環境で分解が進まず、湿地帯の泥の中で保存されるため、ピートは非常に特徴的な香りを持っています。
スコットランドでは、このピートがウイスキー製造において重要な役割を果たします。モルト(大麦麦芽)を乾燥させる際に、ピートを燃やしてその煙をモルトに染み込ませることで、特有のスモーク香が生まれます。このようにして作られたモルトを「ピーテッドモルト」と呼び、ピーテッドモルトを使用して作られたウイスキーを「ピーテッドウイスキー」と呼びます。
アイラ島のピート
アイラ島はスコットランドの西部に位置し、海に囲まれた小さな島です。この島は、スコットランドの中でも特にピート香が強く、スモーキーなウイスキーの代表的な産地です。アイラ島のピートは、島の特異な環境により、スコットランド本島のピートとは異なる特徴を持っています。
アイラ島のピートには、特に海藻の影響を受けた独特の風味があり、それがアイラウイスキーのスモーキーさや海の香りを生み出します。また、島の水もピート層を浸透しており、これが強いスモーキーさをさらに引き立てています。
キルンとは?
ピートによるスモーク香をウイスキーに移すためには、キルン(乾燥塔)という設備が使用されます。キルンは、発芽した大麦を乾燥させるための施設で、細かい網目状の床に大麦麦芽を広げ、そこに熱風を送って水分を飛ばします。この時に燃やしたピートの煙が麦芽に染み込むことで、ウイスキーにスモーク香が移るのです。
キルンの役割は、ただの乾燥だけでなく、ウイスキーのフレーバーの基盤を作る重要な工程です。ピートのスモークが麦芽にどれだけ染み込むかで、最終的なスモーキーさが決まります。
フェノール値とは何か?
ピーテッドモルトに含まれるスモーキーな風味の元となるのが、フェノール化合物です。これらの化合物がピートの煙に含まれており、麦芽に吸収されることで、ウイスキーに特有のスモーク香が生まれます。このフェノール化合物の含有量を示す単位が「フェノール値(ppm)」です。
- ライトピート: 約10ppm
- ミディアムピート: 約25ppm
- ヘビーピート: 約50ppm
一般的に、フェノール値(ppm)が大きいほどスモーキーなウイスキーになると考えられがちですが、実は必ずしもそうではありません。フェノール値は大麦麦芽の乾燥時に測定されますが、その後の発酵、蒸留、熟成の過程で、スモーキーさは大きく変化します。
たとえば、フェノール値が高い麦芽を使っていても、発酵や蒸留の工程でそのスモーキーさが抑えられることもあります。逆に、フェノール値が低い場合でも、熟成やブレンドの際にスモーキーさを強調することも可能です。つまり、スモーキーさの表現には製造工程が大きな影響を与えるということです。
ピーテッドウイスキーの楽しみ方
ピーテッドウイスキーの魅力は、そのスモーキーな風味だけでなく、複雑な味わいや香りにもあります。ピートの煙が生み出す風味は、単なるスモーキーさにとどまらず、燻製のような香りや土っぽさ、そして海藻や塩の風味も感じられることがあります。
アイラのウイスキーを代表する「ラフロイグ」や「アードベッグ」、「ラガヴーリン」などは、強烈なスモーキーさを誇り、ファンを魅了しています。一方、スコットランド本島のハイランド地方などでは、ピートの使用が控えめなウイスキーも多く、ピート香が際立つ一杯を探し出すのもウイスキー愛好者の楽しみのひとつです。
おすすめのピーテッドウイスキー
アードベッグ 10年
- フェノール値:約55ppm
- 特徴:強烈なスモーキーさとピート香、海藻や塩気が際立つ力強い味わい。バニラやシトラスの甘さもあり、バランスが取れた一本。
- おすすめの飲み方:ストレートやロックでピートの力強さをそのまま楽しむのがベスト。
ラフロイグ 10年
- フェノール値:約40ppm
- 特徴:ヨードや薬草のような独特なスモーキーさが特徴。塩っぽさとスモーキーさが強く、ピート好きにはたまらない一本。
- おすすめの飲み方:ストレート、もしくは少量の水で香りを広げる飲み方が人気。
ボウモア 12年
- フェノール値:約25ppm
- 特徴:フローラルでフルーティーな香りに、穏やかなスモーキーさが加わったバランスの良い味わい。初心者にもおすすめ。
- おすすめの飲み方:ロックやハイボールで爽やかに楽しむのもおすすめ。
ラガヴーリン 16年
- フェノール値:約35ppm
- 特徴:深くリッチなスモーキーさと甘いモルトのバランスが絶妙。長い余韻と複雑な味わいが特徴。
- おすすめの飲み方:ストレートや少量の水で、その複雑な香りをじっくり味わうのが最適。
カリラ 12年
- フェノール値:約35ppm
- 特徴:フレッシュなシトラスとスモーキーなピート香の絶妙なバランス。軽やかさと力強さを兼ね備えた味わい。
- おすすめの飲み方:ハイボールや水割りで爽やかに楽しむのも人気。
まとめ
ピートとピーテッドウイスキーは、スコッチウイスキーの中でも特に個性豊かな存在です。そのスモーキーなフレーバーは、ピートという自然の素材が生み出すものであり、スコットランドの歴史や風土とも深く結びついています。フェノール値や製造工程により異なるスモーキーさを楽しみながら、自分好みのピーテッドウイスキーを見つけてみてください。
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