ウイスキーにとって「どこで造られたか」は、味わいに大きく影響する要素です。今回は、広島の自然をそのままウイスキーに閉じ込めたような個性を持つ、SAKURAO DISTILLERY(桜尾蒸留所)のシングルモルト3種をテイスティング。その豊かな香味と背景にある土地、そして造り手の想いを探ってみました。
瀬戸内の塩風が香る──シングルモルト桜尾
まずご紹介するのは「シングルモルト桜尾」。熟成期間はわずか3年ながら、深みと完成度の高さに驚かされる一本です。4種類の樽(バーボン樽、シェリー樽など)で熟成されたピーテッドモルト原酒をブレンド。潮風が吹き込む海辺の貯蔵庫で育まれたこともあり、まるで瀬戸内海の香りをそのままボトルに詰め込んだような印象を受けます。
テイスティングノート:
- 香り:バニラ、完熟したブドウやオレンジ、潮のニュアンス
- 味わい:クリーミーでほのかな塩味、果実感のある甘み、軽いスモーキーさ
- 余韻:濃厚でウッディーな甘さが長く続く、やさしいスモークが鼻に残る
この一本に感じる「海の記憶」は、蒸留所内の“海の貯蔵庫”で生まれた個性。穏やかな瀬戸内の気候が、短期間でもまろやかな熟成をもたらしています。
森林浴を一口に──シングルモルト戸河内
次にテイスティングしたのは「シングルモルト戸河内」。こちらは、山間部にある旧鉄道トンネルを再利用した“山の貯蔵庫”で熟成されており、その立地が生み出す静かな時間が、ウイスキーに独特の清涼感と香りをもたらします。
テイスティングノート:
- 香り:新緑、ミント、青リンゴのような爽快感
- 味わい:軽やかで透明感のある甘み、心地よい苦み
- 余韻:キレのある爽やかさが残り、すっきりと終わる
ノンピートモルトをバーボン樽で熟成。ピートのスモークがない分、素材と環境がダイレクトに表れるような味わいです。「森の中で飲むウイスキー」という表現がしっくりくる、穏やかで凛とした一本です。
ロマン香る赤琥珀──シングルモルト桜尾 シェリーカスク
最後は「シングルモルト桜尾 シェリーカスク」。見た目からすでに特別感を漂わせる深い赤琥珀色。50%という高めのアルコール度数ですが、まろやかで丸みのある口当たりが印象的です。
テイスティングノート:
- 香り:レーズン、煮詰めたベリー、微かな土っぽさ
- 味わい:濃厚な果実の甘さ、チョコレート、スパイス
- 余韻:スモーキーなフィニッシュと樽の甘さがふんわりと続く
温暖な海辺での熟成に、シェリー樽の贅沢な風味が重なり、非常に華やかで複雑な香味が広がります。まさに“大人のデザートウイスキー”とも言える一杯です。
テロワールを飲む──SAKURAO DISTILLERYとは
これらの個性豊かなウイスキーを手がけるのは、SAKURAO DISTILLERY。1918年創業の中国醸造が100周年を迎えるタイミングで新たに開設した蒸留所です。特徴的なのは、異なる自然環境に設けられた二つの熟成庫──海辺の“桜尾”と山中の“戸河内”──で熟成を分け、広島の地の香りをウイスキーに反映させている点。
また、現在はスコットランド産の麦芽を使用しているものの、将来的には広島産大麦への切り替えも計画しており、真の意味で「地元を味わうウイスキー」を目指して進化を続けています。
桜尾蒸留所について特集したブログもありますので是非✨
☞SAKURAO DISTILLERY(桜尾蒸溜所)の魅力とは?桜尾・戸河内ウイスキーの評価 | お酒巡り
まとめ
SAKURAO DISTILLERYのウイスキーは、ただのクラフトウイスキーではありません。海と山、異なる自然の恵みをそれぞれボトルに込めた、まさに“テロワールを飲む”体験です。
どの一本も、味わうたびにその背景や景色が思い浮かぶような奥行きがあります。ウイスキーに“場所の記憶”を求める方には、ぜひ味わっていただきたいシリーズです。
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